全行程に手間ひまをかける。そのこだわりが和の逸品を生み出す。

やまい伊藤製陶所の特徴は、何と言ってもその生産工程にあります。手間がかかる伝統製法のガバ鋳込み(排泥鋳込み)による成形から始まり本焼成までの細かい工程を、自社生産を基本に行っています。それぞれの工程を完全な分業で行うケースが圧倒的に多い昨今においては、希少な存在。あくまで職人による手作業にこだわることで、伝統美と質の高さを今でも保っています。

工程1−1

「成形/ガバ鋳込み(排泥鋳込み)」

形を作るのに必要な石膏型に、泥漿と呼ばれる泥を注入。泥の水分を石膏が吸って徐々に泥が固まります。2、3時間ほど経過し陶器本体部分の厚さに固まったところで、後の余分な泥を石膏型から取り除きます。この泥を一挙に捨て去る作業が「ガバ鋳込み」の名称の由来となっています。

工程1−1

その状態で1時間ほど置いた後に、更に余分な泥を手作業で掻き出し、最後に石膏の割型を空けて成形された中身を取り出します。

工程1−2

「成形/動力成形」

もう一つの形成方法は、動力ロクロで行う製法です。こちらは石膏型に粘土の固まりを入れて型に沿わせるように密着させて、半自動のロクロを高速回転で回して成形を行います。

工程1−2

磁器の生産現場ではほとんど全自動で行われていますが、当社では人の手で加減しながら成形。ガバ鋳込みとともに、当社での基本の成形方法となっています。

工程2

「成形2/マグカップの模様付け・取っ手取り付け」

成形後、乾燥させて余計な部分の面取り(バリ取り)をしますが、マグカップを作る場合は、その前段階で表面に柄をほどこす“鎬(しのぎ)”と呼ばれる装飾技法の工程に入ります。

工程2

一つづつ、すべて手作業で鎬模様をつけるため手間のかかる工程ですが、作品の柄が決まる大切な工程です。その後、取っ手を取り付けます。

工程3

「乾燥後の面取り(バリ取り+水拭き)」

乾燥後は余計な部分を切り落とし、一つひとつ丁寧に水振きして面取りが完了します。

工程3

単純な作業ですがこの作業を怠ると、焼き上がった際にバリの筋が残ったりして、出来栄えに大きく影響するので大切な工程です。

工程4

「素焼き」

面取り完了後は素焼きの工程へ。摂氏800度ほどの低温で約6時間かけて焼いて生地の水分を完全に飛ばします。この作業により、後の絵付けが可能になり、美しく仕上がります。素焼きの後は若干強度も上がり、手などで叩くと乾いた音がするようになります。

工程5-1

「下絵付け/刷毛目(はけめ)」

素焼きの後は、絵付けの作業に入ります。いくつかパターンがありますが、その一つが刷毛を使って手作業で「化粧土」を塗る技法です。時間をかけて一つひとつ、丁寧に施します。

工程5-1

白土を塗って焼き上がった後の表面にグラデーションを出すために行うのですが、色むらが返って絶妙な侘び寂び感を引き出します。

工程5-2

「下絵付け/銅板転写」

銅製の板に鉄筆で画線を刻んで呉須などの絵具を摺り込み、印刷機で印刷した紙を器面に貼って絵具を写す技法が、銅版転写です。 この技法は美濃で改良されて明治22年(1889)に完成されました。 徳利など胴より口の部分が狭まったものを「袋物」と呼びますが、形状が立体的であるため貼り付けるのが難しく、職人の技が求められる作業になります。

工程5-3

「下絵付け/絵描き」

梅の花などを型どったスタンプを押したり、直接、筆で絵を描きます。職人の個性が反映され、表情豊かな作品ができあがります。ひとつづつすべて手書きで行うため、一つとして同じものはありません。

工程6

「ロウ掛け」

社印を押した箇所や下地を見せたい箇所など、釉薬をかけたくないところにロウを手作業で塗っていきます。こうした地道な作業が、仕上がりに違いを生み出します。

工程7

「釉薬掛け」

絵付けの作業がすべて終わると、釉薬掛けの工程に入ります。この工程は、後の仕上がりを決める重要な作業。釉薬の浸け方、引き上げ方、残りの釉薬の取り出し方、塗り方など、それぞれのやり方ひとつで仕上げに差ができます。同じ仕上がりを見越して完璧に仕上げられるのが、経験豊かな職人だからこその熟練技。

工程7

さらには、釉薬の選定も重要なポイント。当社では釉薬に交じる石粒の量の調整や塗り方を工夫するなどで、最大の特徴である侘び寂びの風情を最大限に引き出しています。

工程8

「本焼成」

最終工程の本焼成は、最後のかなめとなる大事な作業。摂氏1300度に熱せられた窯の中で約20時間掛けて焼き上げます。窯に入れてから出すまでには約2日間かかります。焼き物は、熱源からの距離やガスの風圧の違い、酸化雰囲気か還元雰囲気かの違い、季節の違いなどによって、焼き上がりが変わります。通常は、さまざまな“違い”を頭に入れて細かく調整することで同質のクオリティに仕上げていきますが、窯変と呼ばれる、偶然の仕上がりによる偶然の美が生まれる事もあります。

窯変(ようへん)とは窯内部の化学反応によって作品に生じた色の変化のことです。窯の炎による現象であることから「火変わり」とも呼ばれます。その色の重なりは時に模様を形成し、色彩をより深く、味わいのあるものにしています。

こうして、全行程を通じて細部にまで気を配り、丁寧な手作業で一つひとつを完成させる。その“職人魂”によって当社の商品は生み出されているのです。